ワインの評価に役立つ!ワインの香りを科学的に覚えよう!

 

ワインの香りを語る際、本来は自分の思ったように表現すべきです。

 

しかし、ワインの品質をしっかりと評価するプロの場合、ある程度は科学的な側面からその香りをチェックする能力を付けておきたいところです。

 

ここでは、ワインの香りを科学的な側面から切り取りまとめました。

 

今後ワインの個性を理解する、試飲する場合など、これらを参考にしながらチェックしてみてください。

 

ワインの香りを科学的に捉える必要性


 

ワインの香りを表現する言葉は数多く存在しています。

 

例えば、赤ワインの植物やハーブ、野菜といったニュアンスをより具体的に伝える場合、これらの文言をよく目にしないでしょうか。

 

・カシスの新芽

・アーティチョーク

・干草

・ユーカリ

・ローズマリー

・タイムなど

 

もちろん、プロや一般消費者に伝える場合、これら具体的な物質のネーミングで伝えるべきでしょう。

 

しかし、一方でこれら香りを決定付ける風味化合物などが存在しており、それらを知ることで「どの方向性の香りがあるか」ということがわかります。

 

さらに、ソーヴィニヨン・ブランのグレープフルーツ感をより強調したワインの場合、3MHなどの成分が多く、そのワインが目指す方向性やブドウの品質、酵母の種類なども見えてくるのです。

 

全てを覚えたり顧客に説明する必要はありませんが、自分自身が健全なワインを選ぶ上で科学的に香りを捉えられるとできないでは、選ぶワインの性格が思い切り変わってきます。

 

覚えにくい用語も多いですが、何となく頭の中に入れておくだけでも現場で使える力になってくれるのではないでしょうか。

 


ワインの香り


 ワインの香りは大きくわけて5つあると考えられています。

 

ブドウそのものに由来するもの

・発酵に由来するもの

・微生物的に由来するもの

・保存中に由来するもの

・熟成に由来するもの

 

これらを簡単に解説していきましょう。

 

ブドウそのものに由来するもの


ブドウそのものに由来する香りとは、ブドウが持っている香り成分のことです。

 

ブドウ以外にワインに関与する香りがあるのか?と思われた方もいるかもしれませんが、それに詳しくは後述します。

 

さて、ブドウ由来の香りの中でわかりやすいものを並べました。

 

・メトキシピラジン

・ロツンドン

・フォクシーフレーバー

 

メトキシピラジンはカベルネ・ソーヴィニヨン系の品種に多く含まれているといわれている成分で、「ピーマン香」などと呼ばれています。

 

この香りを良しとする場合もありますが、ほどよく控えるような栽培方法が主体のようです。(冷涼地域は出やすい)

 

ロツンドンは、こしょうの香気成分であり、シラーに多く含まれることが報告されています。

 

こちらも冷涼地域にものに含まれる傾向であり、適量であればワインに複雑を与えてくれる重要化合物です。

 

フォクシーフレーバーは、ラブルスカ種のような生食用ブドウに含まれるブドウジュースのような香りであり、デラウェアなどのワインで感じます。

 

世界的なワインではあまり好まれませんが、日本ワインなどではポジティブに捉えられているようです。



ブドウの果皮に含まれる香り

 

ブドウ本来に由来する香りですが、ブドウの状態だと香りを発生させないユニークなものもあります。

 

とくに白ワインでは重要な香気成分とされており、この香りの要素をブドウにどれだけ蓄えられるかが勝負といった話があるほどです。

 

例えばこれらが有名でしょう。

 

・ノルイソプレノイド系

・テルペン系

・チオール系

 

ノルイソプレノイド系は、β-ダマセノンやβ-イオノン、トリメチルジヒドロナフタレンなどであり、前者はリンゴのコンポート様、後者はスミレ様の香りを感じさせる香気成分です。

 

スミレはピノ・ノワールやカベルネ・フラン、トリメチルジヒドロナフタレンは灯油様の香りでドイツのリースリングのあのオイリーな香りに寄与しているといわれています。

 

テルペン系は俗にいう、マスカット香であり、リナロールやゲラニオールなど、こちらもリースリングに重要な香りです。

 

チオール系は、3-メルカプトヘキサノールなどのことで、ソーヴィニヨン・ブランなどのグレープフルーツ、ツゲ、パッションフルーツに関与している香気成分として広く知られています。

 

イオウ系異臭成分と分類されるようですが、バランスが良ければフレッシュで若々しい印象を与える重要な役割を担うことで有名です。(チオール系は量が多いと不快臭になる)

 

これら香りは、ブドウの果皮に前駆体として存在しており、発酵の最中に酵母によって切り離され香りとして生成されます。

 

揮発性が高く、この香りをいかす場合は細心の注意が重要になります。

 

発酵に由来するもの

 


ワインにインパクトを与える香りの主役は、上記で解説したようなブドウ由来のものですが、発酵中にもさまざまな香りが生成されています。

 

とくに知られているのが、酵母が発酵中に生成する「エステル」といった香りです。

 

日本酒でも有名ですが

 

・酢酸イソアミル

・カプロン酸エチル

 

これらがエステル香と呼ばれるもので、リンゴやバナナ、メロンなどの甘くフルーティーな香りを呈します。

 

あまりエステルが強過ぎるとブドウ由来の香りがマスキングされるため、ワインでは控え目にされることがほとんどです。

 

また、ワインの発酵といえば「マロラティック発酵」も有名でしょう。

 

リンゴ酸を乳酸に変化させる醸造技術ですが、この際にダイアセチルと呼ばれるバターフレーバーが生成されることがわかっています。

 

バター程度であればコクになるかもしれませが、量が多いとぞうきんのムッとした香りとなりやすく、オフフレイバーとして捉えられてしまうでしょう。

 

近年多い、未熟なヴァンナチュールなどでどことなくムッとした香りがするのは、もしかしたらダイアセチルが関連しているかもしれません。

 


微生物的に由来するもの

 

ワインは微生物汚染されやすいため、これらの働きによって品質が大きく左右します。

 

ただし、これらがよい方向に働くこともあるところがワインの難しさであり、おもしろさともいわれているようです。

 

まず、微生物的に由来する香りの代表例が硫黄系のものでしょう。

 

ワインのアルコール発酵時に窒素が不足すると、これら香りが発生することがわかっています。

 

例えば、メルカプトエタノール、ジメチルスルフィドやジメチルジスルフィド、硫化水素が有名です。

 

これらは、ゴミや煮たキャベツ、玉ねぎ、ゴムなどの香りを呈するため、本来あまりワインにとってポジティブではない香りといえます。

 

しかし、ブルゴーニュの白ワインはこれらニュアンスを上手に利用しており、これらをミネラル感と呼ぶこともあるようです。

 

ブルゴーニュの石灰質土壌が窒素不足といった話もあるなど、偉大なワインに寄与する香りと考えると難しいところでしょう。

 

ほか、シェリーのようなアルデヒドを上手に利用する場合は産膜酵母が関連していたり、酢酸菌による酢酸エチルの生成などが有名です。

 

酢酸エチルが多いとセメダインのような香りを呈し、野生酵母から造られるワインで多く見受けられるともいわれています。

 

さらに有名なのが、ブレタノミセスと呼ばれる酵母による汚染です。

 

ワイン中のフェノール酸がブレタノミセスによって脱炭酸、還元して生じるもので、馬小屋などオフフレイバーを生成することで知られています。

 

また、ビニルフェノールなどの薬品の香りを呈するものもあるなど、ワインに深刻なダメージを与える存在です。

 

一方、このブレタノミセスがバランスよく入るとワインに複雑性が生まれ、ほかにない個性的な風味を生み出すといわれています。

 

コート・デュ・ローヌの赤ワインなどに多く見受けられますが、これもまた個性と捉えられるところがワインのおもしろさです。

 


保存中に由来するもの

 

ワインは瓶詰めされたらすぐに飲まれるお酒ではなく(一部の新酒は除く)、半年後、1年後、2年後、数十年後に飲まれるお酒です。

 

その保存中に発生する香りもあるため、それら香りを理解しておく必要があります。

 

近年、少なくなっていますが亜硫酸臭と呼ばれるものもそのひとつです。

 

刺激的な香りがあり、ワインの品質を落とします。

 

恐らく保存中に最も多いのが、酸化による酸化臭でしょう。

 

酸化によってフェノールが反応し、白ワインであればアルデヒド臭と褐色化が進みます。

 

より酸化すると醤油や焦げた臭いになりますが、あえて酸化の効果を狙った老酒といったお酒もあるので興味深いところです。

 

さて、保存中に発生する香りで酸化と共に注意したいのが「日光臭」と呼ばれるものでしょう。

 

ワインは瓶で保存されるため、光を透過してしまいます。

 

日光などがワインに直接当たると、化学反応の結果イオウ系の異臭物質が発生するため、劣化してしまう恐れがあるのです。

 

ワインセラーのような光がほとんど当たらないところで保存すべき理由は、こういった部分にあることを覚えておきましょう。

 


熟成に由来するもの

 

上記でもお伝えしているように、ワインは熟成されることが多いお酒です。

 

熟成中に味わいがまろやかになるといった狙いもありますが、やはり熟成中に生成される香りの寄与といった部分も重要なポイントでしょう。

 

樽熟成の場合、微量の酸素を透過することからワインは酸化熟成されていきます。

 

フルフラール類、ラクトン、オイゲノール、バニリンなどが代表的な香り成分ですが、これらはワインにヴァニラやクローブ、スモーキーさを与えることで知られています。

 

赤ワインの香りの多くは、樽熟成中に発生するものと考えてもよいでしょう。

 

またヴィティスピランやダマセノンといった香りの生成があることも報告されているなど、微量ながら熟成によってワインはさまざまな香りを生成することがあります。

 

ただし、瓶熟成を長くすることで還元的な香りになることもあり、硫黄系の香りが出てきてしまうこともあるので注意が必要です。

 


ワインの香りを科学的に捉えてみよう

 

ワインには数千といった香り成分が含まれているといわれており、ここで紹介したものだけで香りが決定付けられるわけではありません。

 

とはいえ、これだ代表的な香りをしっかりと理解しておけば、ワインの性格や個性、ブドウ原料の質なども理解できます。

 

ヴァンナチュールで違和感を感じる香りなどは、すべてこういった科学的な香りの多寡で判断できる可能性があるため、どこまでが面白く、どこまで危険なのか自分の判断軸にもなるでしょう。

 

どういった醸造を経たか、どういった熟成を経たのか、そういった部分をより具体的に知ることもワインを楽しむ際のポイントになるのではないでしょうか。